「なぜ経済予測は間違えるのか」読んだ

なぜ経済予測は間違えるのか?---科学で問い直す経済学

著者はカナダ出身のオックスフォード大学の応用数学者,デイヴィッド・オレル.

本書は一貫して,複雑系科学の研究者の彼が新古典派経済学をイデオロギーだと一刀両断する.

新古典派経済学では一般均衡モデルにより数学的手法,すなわち凸解析,最適化やゲーム理論を用いた解析がなされるが,現実の経済は売り手と買い手には非対称な情報格差が存在し,予測困難な気象現象にあまりにも大きく左右され,各個人の幸福感のような量化困難な質的指標が蔑ろにされ,また(少々穿った見方をすれば)この業界には健全な倫理基準がないのにもかかわらず,新古典派経済学は大学の経済学部では今なお教えられてきている.

特に従来の数理モデルが,いわば机上の空論でこれからは応用数学者による新しい数理モデル,新しい経済学が必要だと著者は説く.

経済学は「賭け」の研究から始まった.これはブレーズ・パスカルの研究に端を発する.今でいう「格子モデル」だ.

その後,進化論を発表したチャールズ・ダーウィンの従兄弟にあたるフランシス・ゴルトンが正規分布の布教を始めた.正規分布は至る所に現れる.例えば,日本人男性の身長の度数分布は正規分布に従う.

これを金融商品のリスク計算に役立てようとするのは自然な流れだった.

正規分布によるリスク計算はしばらく順調だった,そう,ブラック・マンデーその日までは.

それはいわばある日突然やってきた地震のようだった.これは冗談ではなく,実際に価格変動と地震は酷似していた.

figure

価格変動は地震と同じような動きを示す.

正確には価格変動は正規分布には従っていない.べき分布だ.

ここからは複雑系科学の方向からいくつかの結果がある.

例えばシェルピンスキーのギャスケットには辺長対個数がべき乗則に従う.このようにフラクタル(自己相似的な)図形にはべき乗則が多く現れる.

また,ネットワーク理論ではスモールワールド・スケールフリーネットワークで次数分布がべき乗則に従う.バラバシ・アルバートモデルである.

人類はべき乗則な事象の発生を予測出来るか,が間違いなく21世紀の科学に問われている事の一つだ.それは地震が統計的に予測できる日かもしれない.(地学的な「予知」ではない)

だから,新古典派経済学者,ならびに金融分野の人間はもっと謙虚にすべきだ.

特に,間違った分布,正規分布から計算したリスクをCDOのようなリスク分散商品を多くの人に売りつけた.それはいわば「病気の家畜の肉を細かくして全体に拡散するソーセージ工場」のようなものだ.

そして,実際に大暴落が起こると,AIGのように政府に泣きついておきながら,重役には高額のボーナスが支払われる.同業他社へ行かれると困るからだ.この業界は政府との繋がりも強く,どう転んでも彼らは損をしないことになる.

FRBのような自浄作用は不可欠だ.医者にも技術者にも存在するような倫理規定が,金融分野では健全な倫理基準が育っていない.

そもそも経済学は利己的な人間のみから構成されることを大前提としている.経済学の原理として鞘取引が市場を適正にする,というのは一見正しそうであるが,倫理的には「安い卸売業者に適正価格を教えてあげる」ことのはずだ.

報酬が過剰で社会的には生産性が低い,この金融という分野はこれからもますます影響力を増していくだろう.

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