エンタングルメントと情報のエントロピー

量子情報処理がいま熱い.

従来のコンピュータは電流が流れたら1, 流れなかったら0と認識する.普通電子が一個だけで存在することはないから,電子の集団がいたら1, いなかったら0と認識すると言い換えてもよいかもしれない.

量子コンピュータは電子一個に対して,ビット演算を行う.

(本当は正確ではないのだが)電子は自転している.右回りと左回り,といった具合である.また,電子はよく知られているように電荷を持っている.電磁気学によれば,電荷の運動(すなわち電流)は周囲に磁束を生むのであった.電荷が回転するので,それは円状電流のように考えられる. すると,中心には電流方向に対して右ねじの進む方向に磁束が出現する.これをスピンという.電子が右回りに自転していれば電子の南極から北極へ磁束が出現する.これをスピンが上向きであるといってこの状態を簡単に↑と書く.逆に,左回りに自転していればスピンは下向きであるといって同様に↓と書く.ちなみに,物質内の電子のスピンが揃っていると,磁束が強めあう.これが磁石である.

一個の電子に二つの状態↑と↓が存在するので,これをそれぞれ1と0に対応させようというのが量子コンピュータの発想.電子一個が一つの量子ビットに対応する.

コンピュータは論理回路の集合体である.従来のコンピュータの論理回路は量子コンピュータではどのように変わるだろうか.次の例を考える.

2量子ビットゲートであるCNOT(Controlled-NOT)ゲートは条件付演算としてよく使われる.演算規則は次のとおり.

input output
00 00
01 01
10 11
11 10

これをトランジスターで実装するなら,排他的論理和XORを一つ用意して

とすれば実装できる.(Sourced by wikipedia “CNOT”)
量子コンピュータで考えるには1番目の量子ビットの状態に応じて2番目の量子ビットの状態を変化させるようにすればよい.CNOTゲートを行列表示すると

CNOT=\begin{pmatrix}1&0&0&0\\ 0&1&0&0\\ 0&0&0&1\\ 0&0&1&0\end{pmatrix}

となる.この行列の右から \begin{pmatrix} 1 \\ 2 \\ 3 \\ 4 \end{pmatrix}をかけると,\begin{pmatrix} 1 \\ 2 \\ 4 \\ 3\end{pmatrix}となって,これらをそれぞれ2進数表記に直せば,上記の表のようになって確認できる.

このCNOTゲートが1量子ビットゲートの組み合わせであるかどうかを調べる.そのためには
任意の直積ベクトル|\phi \rangle |\psi \rangleを用いて,CNOT(| \phi\rangle\otimes | \psi\rangle) = | \phi ' \rangle\otimes | \psi ' \rangle と書けることが条件.|\phi\rangle =\begin{pmatrix}\alpha _1\\ \beta _1\end{pmatrix}, |\psi\rangle =\begin{pmatrix}\alpha _2\\ \beta _2\end{pmatrix}とすれば,

CNOT(|\phi\rangle\otimes |\psi\rangle )=\begin{pmatrix}1&0&0&0\\ 0&1&0&0\\ 0&0&0&1\\ 0&0&1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix} \alpha _1\alpha _2 \\ \alpha _1\beta _2 \\ \beta _1\alpha _2 \\ \beta _1\beta _2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} \alpha _1\alpha _2 \\ \alpha _1\beta _2 \\ \beta _1\beta _2 \\ \beta _1\alpha _2 \end{pmatrix}
=\alpha _1\alpha _2 |00\rangle +\alpha _1\beta _2 |01\rangle +\beta _1\beta _2 |10\rangle +\beta _1\alpha _2|11\rangle =(a |0\rangle +b |1\rangle )\otimes (c |0\rangle +d |1\rangle )

これを計算して,a,b,c,dを消去すれば,\alpha _1 =0,\beta _1 =0または\alpha _2 ^2=\beta _2 ^2のいずれかの場合のみ,直積状態になっているが,それ以外の状態では直積状態ではない.
このように,2量子ビットゲートでは直積状態ではない一般的な状態がある.これをエンタングルしているという.2量子ビットゲートは一般にエンタングルメントである.直積に直せるときは,その2量子ビットゲートはセパラブルという.そして,どのくらいエンタングルしているか,エンタングルの定量的評価を行うために,エントロピー測度というものを導入する.

ここで,本題からそれて,情報量の尺度としてのエントロピーについて考える.宝くじを一枚買って,それが一等賞を当てたとする.そのときは誰もが驚くに違いない.一方,それがもしはずれだったとしても,そのときはずれだったことにひどく驚く人はいないだろう.つまり,宝くじがはずれるというありがちなことが起こったとき,そのことに対する情報は少ないが,めったにないことが起これば,その情報は大きいということになる.確率が小さければ小さいほど,それが起こったときの情報量は大きいわけだから,宝くじが当たる確率をpとすれば,情報量は1/pと考えたいところである.ところが,これだと2つの独立の事象を考える場合に都合が悪い.もう一つの宝くじに当たる確率をqとしたとき,それぞれの情報量は1/p1/qになるので,2つの宝くじに当たる時を考えると,その情報量は1/p+1/qとなっていてほしい.しかし一方で,両方に当たる確率はpqなので,情報量としては1/pqとなっていて,1/pq \neq 1/p +1/qとなり都合が悪い.そこで,加法が成り立つように対数関数を用いる.確率pに対して,情報量は\log(1/p)=-\log(p)とすることで,-\log(pq)=-\log(p)-\log(q)となり,加法が満たされる.そこで,言わば情報量の期待値

E_s = -\sum_j p_j \log_2 p_j

が定義される.これがシャノンのエントロピーと呼ばれるものである.

話を戻して,CNOT(|\phi \rangle \otimes |\psi \rangle )=\alpha _1 \alpha _2 |00\rangle +\alpha _1 \beta _2 |01\rangle +\beta _1 \beta _2 |10\rangle +\beta _1 \alpha _2|11\rangle =\alpha _1 |0\rangle (\alpha _2 |0\rangle )だから行列表示すると\begin{pmatrix}\alpha _1\alpha _2& \alpha _1\beta _2 \\ \beta _1\beta _2& \beta _1\alpha _2 \end{pmatrix}
これを対角化したときの対角成分が情報量に値し,上式のp_jにあたる.
\begin{vmatrix}\alpha _1\alpha _2-\lambda& \alpha _1\beta _2\\ \beta _1\beta _2& \beta _1\alpha _2-\lambda\end{vmatrix}=0 を計算して得た\lambda _1,\lambda _2を用いて,CNOTゲートの情報のエントロピーは

E_s=-\lambda _1\log_2\lambda _1-\lambda _2\log_2\lambda _2

となる.E_s=0となる純粋状態のときの\alpha _1,\alpha _2,\beta _1,\beta _2を求めると,先程の\alpha _1 =0, \beta _1 =0, または\alpha _2 ^2=\beta _2 ^2が出てきて,E_sがエンタングルメントの測度を表していることがわかる.

参考


量子力学の考え方

サイエンス社の雑誌数理科学の別冊であるSGCライブラリシリーズ.よくまとまっているが,数カ所誤字を見つけた.とりあえずサイエンス社にメールを送ってみたが…どうだろう.

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