目で見る美しい量子力学

やっと,このブログのタイトルにふさわしいエントリーが書けることを嬉しく思う.

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目で見る美しい量子力学

読了した.著者は外村さん.次の動画で有名な,日立の研究者である.

(他の動画は http://www.hitachi.com/rd/research/em/movie.html へ)

この動画は電子の二重性-粒子性と波動性-を最も顕著に表しており,最も美しい物理実験ランキングのトップになったことから,非常に有名になった.

十分な時間をはさんで電子をフィルムに打ち付けるという実験なのだが,最初はポツポツとランダムに電子が現れ,やがてそれは干渉縞を形成していることが一目瞭然だろう.

本書は実験物理の外村さんの40年にわたる研究の変遷を,どうしてその実験が必要なのかという理由とたちはだかった困難を平易に解説している.

それは,時には高解像度の電子顕微鏡を作ることだったし,AB効果(アハラノフ・ボーム効果)を検証するためにドーナツ型の磁石を作ることだった.

電子顕微鏡開発の際の興味深いエピソードを紹介する.

(輝度のより高い電子線を求めて開発していた頃),本来なら一点に静止していなければならない電子源の像が,何もしていないのに,あちこち大きく振り回されていた.電子線を揺らしているのが,隣の部屋においてあるコンピュータからの交流磁場ではないかと思うと,電源を切ってもらい,上の階の実験装置から振動が伝わってきていると思えば,それを止めてもらう.ところがどうしても原因がつかめない.そのうちだんだんと遠いところまで疑い始め,とうとう近くを通っている電車が悪いのではないか,ということになった.(中略)昼間,電車も自動車も頻繁に通っているので,因果関係はつかめなかったが,終電近くになってくると,スポットの揺れもまばらになってきた.注意深く観察すると,電車と関係があり,つながりが見えてきた.どうも電車が国分寺駅を発車するときにスポットが動くようだ.終電が去った後,この大きな揺れはなくなった.

また,この本は量子力学の本質的な理解の手助けもしてくれる.

俺は今まで電子のスピンがよくわからなかったけど,これによればスピンとは”粒子が自転しているときに生じる角運動量”らしい.じゃあ,スピンを持つ粒子の波動関数はスカラーかというとそうではなく,角運動量というからにはベクトルかというとそうでもなく,テンソルとも異なった “スピノール” という量で表されるんだそうだ.ああ,ディラックスピノールとか聞いたことあるわ.スピノールの持つ特異な性質として,一回転しても元に戻らずマイナスの符号がつくのだとさ.二回転で元通りか.波動関数はリーマン葉でいうところの二価性なんかな.

そして,これまた名前しか聞いたことなかった”AB効果”.これは発見者であるアハラノフとボームにちなむ.

AB効果とは,ズバリ “電子は,電場や磁場に触れていなくても,物理的な影響を受ける” というものである.そんなバカな.しかし,AB効果を考えることはそれはすなわち”電磁気”とは何だろう,と考えることに直結する.

では,何に影響を受けるというのか.それは,みんな大好き “ベクトルポテンシャル\mathbf{A}” である.

ベクトルポテンシャル\mathbf{A}を使って,マクスウェルの波動方程式を書きなおすと次のとおり.

\mathbf{B}= rot \mathbf{A}

\mathbf{E}=- \dfrac{\partial \mathbf{A}}{\partial t}

マクスウェルはベクトルポテンシャル\mathbf{A}を物理量と考えた.なぜなら,2番目の式は\mathbf{A}の時間変化は単位電荷に働く力である.(F=qE) これは,「運動量の時間変化が力である」ことを示すニュートンの運動方程式を思い出させる.ベクトルポテンシャル\mathbf{A}は運動量と同じ役割を果たしている.実際,マクスウェルは\mathbf{A}を”電磁気的運動量”と呼んでいる.

しかし,後にベクトル解析を確立したヘヴィサイド以来の伝統ではこれを単なる数学的なものだと考えた.しかし,それも仕方ない.電磁波の存在を予言していたマクスウェル自身が,粒子の性質である運動量などと言っても当時は二重性にたいする理解も乏しく,波動性のみが一人歩きしたのだろう.

そして量子力学になると,V\mathbf{A}は波動関数の位相を変える量として,\mathbf{E},\mathbf{B}よりも重要な役割を果たす.

AB効果を実証する実験では,ドーナツ型の磁石の内部と外部で波動関数の位相が異なっていればよいのだが,それが困難を極める.やっとの思いで撮った写真を雑誌に投稿すると,磁束が漏れている可能性を指摘され,今度は超伝導物質で覆うことに.マイスナー効果で磁束が外に漏れることはない.そして,これもまたAB効果を裏付ける結果となり,めでたくAB効果は実在すると確認された.

マイスナー効果は低温になると電子のスピンが(どの方向に揃ってもエネルギーは変わらないのに)自発的に揃う現象である.その割合はN \mu \tanh \dfrac{\mu H}{k_B T}とかける.このような”対称性の自発的破れ”は自然現象の中でも特に神秘的だと思う.

また興味深いのは,カーボンナノチューブの内部に磁場をかけるとAB効果によって電子状態が変化し,伝導体が半導体になることも確認されたという.

何はともあれ,いまやAB効果は”二重スリットの実験”と並んで,量子力学の真髄を表す現象なのだという.

本書全体を通して技術者にあるべき心意気がヒシヒシと伝わってくる.実験物理を志す人にオススメ.何だか知らず知らずのうちに,熱統計力学と電磁波工学の試験勉強しちまったぜ…

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